時刻は22時50分

観劇とかの感想を緩く的外れに。

ナイスコンプレックス版12人の怒れる男 雑感(東京Aチーム編)

今年は感染症対策として演出面の変更あり。

大きな変更としては昨年舞台手前にあった見えない扉が奥に存在するようになったこと、円卓が長くなったこと。あとは演出のキムラ真氏がツイートしていた通り。 

 

ロビー入場時に非接触型の検温、アルコールによる消毒が必要。チケットはセルフもぎり。物販は通販のみ。

ロビーでは極力人が留まらないように随時声かけをされていて徹底した対策をされているなといったところ。

尚今回RY傍聴席が中止になり(前方二列を廃止して)実質最前からの二列に振り替え。自分で組み立てる型のフェイスシールドの着用を義務付けされてました。わたしは今回はRY傍聴席いかなかったのでその後ろから見てたんですが眼鏡とシールドが合体したようなもので興味が湧いた。つけ心地どうなんでしょね。

座席は市松配置。博品館劇場の性質(なだらかな斜面)と12人の怒れる男の舞台設定上、どうしても前方は見づらい時がある。高めの舞台だと特に。三列目でちょいちょい奥の一号二号が見えづらかった。

去年のTACCS1179でも最前だと奥の役者が見えない現象が起こってたけど対策となると奥に向かって斜面を作るぐらいしか思いつかない。それはそれで見栄えや役者の負担的にどうなんだって話ですが。

出演者はマウスシールド着用。開演五分前に守衛役のよこのさんが陪審の準備をするという芝居で机、椅子等を丁寧に除菌。クーラーの風に心地良さそうに手を広げる彼はほっこりポイントなので観て欲しい。

 

今回は東京A、東京B、大阪A、大阪Bの4パターン。両方に複数パターン出演される役者さんもいるものの印象としてはがらりと変わっている。わたしが観たのは東京A二回東京B一回。大阪公演も両方観る予定。

(いや東京はもっと観る筈だった…7/31-8/2が消えました)

当記事は東京Aについて。初日昼夜公演を観劇。東京B及び大阪ABはまた別に記事にしたいとは考えてます。

 

いやあの、最高だな、と。ナイコン12人を生で観るのが去年に引き続き二回目でして、去年も満足度の高い観劇をさせてもらってめちゃくちゃ楽しかった夏の記憶だったんですけど。去年には去年の、今年は今年の比べようがない良さってこういうことなんだなぁといった気分です。同じ題材で別の役者さんが演じるのを観続ける事が出来る、去年も出演した役者さんが同じ役、ないしは別の役を観る事が出来る。毎年の積み重ねを感じる事が出来るという贅沢さは中々体験出来ないのでは。これからも続いていって欲しい公演の一つだと改めて感じました。

 

さて今年も一号から順に雑感を。

 

陪審員一号(東拓海さん)

去年は大阪公演のみの一号でしたが今年は東京A、大阪Aでの出演。アクの強い12人を纏めようと奔走する体育教師の役です。

去年の大阪公演も観てて、昨年までの東京公演で演じられていた登野城さんの一号に比べて体育教師感満載だなぁ(友人と喋ってたのは登野城さん一号は赴任三年目の担任持ち、東さん一号は赴任一年目の副担任ポジみが強い)というぐらいにパワフルなイメージだったのですが、今年は更に振り切れた印象。野球のフォームとツーブロックが気に入らない体育教師(アメフト部顧問)。より我を出していく方向性かな、と思いました。他のメンバーの言い合いを眺めて胃を痛めてそうな渋い顔をしていたのが印象的。

陪審員一号の陪審員長という肩書を気に入っているという役どころを声を張って重々しく、時にオーバーリアクション気味に振る舞うという演じ方におお…となりました。大阪Aではまたメンツが変わるのでどんなキレ方をするのか楽しみ。

 

陪審員二号(登野城佑真さん)

夏にスケジュールを詰めがちなのは今年も変わらず(げんせんじゃ〜公演の約一週間後が十二人公演)。

キャスト発表前に「今年はどうかな〜?日程的にあり得そうだけど」とか言ってたら案の定出演されてる上にまさかの二号に役が変わってた時のわたしの戸惑いようは上半期ベストでしたね。

2018、2019に続いて三度目のご出演。前回まで一号でしたが今回は隣に移って二号役。眼鏡。わぁお最高じゃん。穏やかながらも怒りの瞬発力が凄まじかった一号から気弱な二号をどう演じるのかと楽しみだったんですがまぁとても良かったです。纏っている空気感がTHE 僕ちゃん。

去年の山口さん二号はにこにこへらへらしながらもどこか鋭いものを隠し持ってるような食わせものといった印象を受けていたんですが、登野城さん二号はあんまり空気の読めない気弱な若者に全振りといった感じ。ただし馬鹿ではない。空気読めなさすぎて馬鹿っぽく見えるし、メモをめくって食い入るように観る様は滑稽に見えるけどそこから積み上げていった問題から疑問を感じた瞬間からの芯の通り具合は素晴らしいの一言。

歩いてるだけでこいつは気弱で小物な男だって一発でわかる演技って凄くないですか?姿勢、歩き方、眼鏡の使い方ひとつひとつが二号という人物を表している。確かに二号は発言力や存在感が薄めのポジション(≠実際に薄い)なイメージなんですが、でも確実に二号であると分かる所作。馬鹿っぽく、滑稽に見えるけど彼は真剣にで、だからこそ男達が行き詰まった場面でのターニングポイントへの一手になり得た。そんな二号さん。

彼があからさまに怒りを露わにするのは二回なんですけど、一回目の独り言のような怒りと二回目の三号に向けての怒るそのグラデーションも素晴らしい。そして相変わらず声がよく通る方です。

いやほんとにもっと観たかった…。

 

陪審員三号(小林健一さん)

はじめましての方。いやあの知ってはいました。マグダラで鯨井さんに痛めつけられて嬉しそうにしてた方という覚え方で。何で観たかな…DVDか…?

強面感が強く圧倒的パワハラ型オッサンであるさひがしさん三号に対して小林さん三号は喋ってても面倒くさいし怒るととても面倒くさい型オッサン。どっちも厄介すぎる。三号は毎回血管は大丈夫か?というほどキレ散らかすんですが今年に関してはそこに酸素は大丈夫か??が追加されましたね…。マウスシールドつけて演じるのほんと大変そう…。

三分に一回は怒鳴ってる三号さんですが小林さん三号もガンガン怒鳴る。しかしどこか妙な憎めなさがあるような、コミカルさも含まれてる印象。最後の有罪だと言い張る場面は子供に出ていかれた親の怒りと後悔が混ぜこぜになった、どこか寂しげな演技が印象的でした。

十二号に無茶振りされつつも付き合ってあげるあたり怒ってない時は割とノリの良い人なんだろうな。

 

陪審員四号(横井翔二郎さん)

はじめましての方。

昨年の東さん四号、足立さん四号とはまた色の違う四号さん。八号に反論する姿は不思議な色気がある。全編通して感情の起伏が終始フラットな分、十号に対して怒りをぶつける姿はとても印象的。十号が部屋の隅で黙った後で怒りにまかせて机を叩く姿が記憶に残りました。あと新聞を取られた時に戸惑ってるのが人間的だし眼鏡の件で八号に対してある意味負けを認めたかのような有罪ではない宣言はどこか清々しく好印象。

 

陪審員五号(吉本孝志さん)

昨年に引き続きスラム生まれの五号さんを演じてらっしゃいます。去年に比べて苛立ちのポイントが分かりやすい印象。これは全体的に言える事かも、舞台が広い分…。スラム生まれという社会的な負い目を感じていて卑屈にならざるを得ない、そんな五号に見えました。あとちょいちょい色んな人の地雷踏む。

ナイフの喧嘩の再現が昨年よりも慣れた感じでかっこよかったなぁ。

 

陪審員六号(滝川広大さん)

こちらの方も昨年からの続投。昨年よりも舞台と観客が遠くなったとは言えあのガタイのでかさと声の通りで三号や七号を圧倒する滝川さんの六号は安心感があります。今年は更に髪の毛が明るくなって見た目の圧と八号を気遣う穏やかさのギャップが大きい。

印象的だったのが十号と取っ組み合いになる寸前の場面。十号の室さんも高身長なので迫力あってわかってはいるものの怖かった。そしてその間を割り込む十一号さんでちょっとフフってなった。

あとクーラーの電源が入った時の顔は見ててほっこり。

 

陪審員七号(古谷大和さん)

個人的に12人の怒れる男の中だと七号を一番注目して観てると言っても過言では無いなと思ってます。昨年の井上さん七号の狂犬っぷりが印象に強く、今年はどうなるのかな…と(笑)

古谷大和さん。昨年の春に観たとなりのホールスターぶりですかね。

とても素晴らしい七号でした。場を引っ掻きまわす役割を与えられている七号ですが古谷さんの七号は茶目っ気と自由奔走さの中に色気が垣間見えて不思議な魅力を感じたなぁ…と。あと行儀が悪い。机に座りがちなんですがそれがピタっとハマるし絵になってしまう。危ない色気を持っている。多分モテる。ツーブロだし。

第一声のメタな発言ともとれる窓やエアコンのくだりは個人的には観客と舞台の壁を取っ払う意味に取れて好印象でした。わざとらしく、さりげなく。身構えていた観客側の空気があそこで柔らかくなった気がする。

 

陪審員八号(濱仲太さん)

安心と信頼の濱仲さん八号。この方の演じる八号の理論の積み重ね方は硬質でありただ事実を淡々と、疑問を整理していくという行為に終始していてそれがとても心地よく感じると毎年思っています。その中で三号に対して「容疑者は息子ではない」と怒りを露わにする場面の説得力が重みを増してるのがいいなぁ、と。今年は昨年の東京と大阪の演じ方の間っぽいかなと勝手に思っています。

昨年は観客席側に扉(という設定のもの)があったので、最後の八号が陪審室を眺める顔が見えなかったのですが今年は舞台奥に扉があるので顔が見えるように。あそこの雰囲気良いですよね。

 

陪審員九号(松田洋治さん)

昨年からの続投。寂しく、穏やかでありながら怒る時は怒る。七号に怒っている時は本当に大丈夫かとハラハラしてしまいます、はい。

社会的弱者である九号が証言の老人の心情を語り、そして最後の最後の有罪の証拠である女性についての矛盾に気づきはしゃぐ姿はある意味で被るのでは?と考えてみたり…。

 

陪審員十号(室龍規さん)

昨年の大阪公演からの続投。室さん自体は昨年十二月ぶり。昨年は大阪公演だからかバリバリの関西弁だったのですが(そもそも大阪公演が関西弁が飛び交う空間であれはあれで好き)、今回は標準語。

ヘイトを撒き散らす事を厭わない人物の十号。今のご時世にはストレートに現実に刺さる登場人物ですね。最後までスラムへの偏見を改める事のないまま、十一人の男達に背を向けられ狼狽する姿が今回めちゃくちゃ好きです。あの段々弱々しくなっていくのに息を潜めたくなるような。自分が間違った認識でいると突きつけられた時、人はどんな反応をするかというのも12人の怒れる男の魅力だと思います。

 

陪審員十一号(山川ありそさん)

移民という難しい役どころの十一号。演じる山川ありそさんは2017年の破壊ランナー以来です。2016年に見たロボロボが記憶に強いな…。

昨年の竹下さんの十一号が偏見に晒された若者ならばありそさんこ十一号はもう少し年齢が高め。太く、落ち着いた声と振る舞いがまた違った十一号で素晴らしいです。陪審員制度を語る場面は言葉を探しながらも制度やその場にいる12人に対して謙虚であり、真摯といった感じ。聞かせる力が強い十一号です。

 

陪審員十二号(尾形大吾さん)

昨年の大阪公演で大暴れした尾形さん十二号が今年も参戦。昨年よりもパワーアップして帰ってきた感が強いです。機関車トーマスはズルい(笑)

終始ピリピリしがちな空間の和ませ役。七号が混乱に陥れる悪魔なら十二号は場をリセットする道化師といったところ。最後の最後までのらくらと自分の意見を持てないままの彼ですがそれでも時折見せるクレバーさ、鋭さが癖になります。個人的には十号に十一人が背を向ける場面が印象的。あそこでどうにもならないと呆れ、怒りを含めて笑う十二号は必見です。文句なしにかっこいい。

 

東京Aチームは登場人物の性質のスタンダードを抑えつつもちょくちょく面白い事をやっている印象でした。クセがなくとっつきやすい上にあんなに面白いのなんでですかね。各々の演技のクオリティが高く(そもそもこの演目に出る役者さんのクオリティは東京AB総じて高めだと感じています/この行書いてる時点で東京B観劇済み)、安心して観れるメンバーです。

12人の男が様々な事で怒り、感情を露わにする様はいま現在の閉塞した世の中ではいっそ清々しく感じました。

感染症対策もでき得る限りをされてるなと思いましたし、もし外に出るのは…という方に配信もご用意されているようなので興味のある方は是非見てほしいと言いたい一本です。